2021.11.08

押井の住民じゃない僕らが、ボランティアで「風神様」のお社を直した理由

押井の里の景観スポットともいえる標高470メートルの高台に祀られているのが、風神社。大風から村人や農作物を守っていただくよう、毎年9月の第1日曜日に祭礼が行われています。(上の画像は、風神社からの眺め)

2019年のある日。風神社のとなりに神木的存在として立っていた桜の古木の枝が折れ、社を直撃。すっかり壊れてしまいました。ちょうど祭礼の一ヶ月ほど前のことでした。

さてみなさん、この社、誰が修復したと思いますか?押井町の風神社なので、住民が直す、もしくは住民が大工さんに依頼して直す。そう思う方が大半ではないでしょうか。

ところが今回、このように立派な社を復元したのは、押井の住民ではなく、大工さんでもない人たちでした。仕事として請け負ったのではなく、完全なボランティアで、しかも必要な木材の調達は木を切るところからやったというから驚きです。

お社を再生したのは2016年から風神社の周辺で活動していた間伐ボランティアとよた山笑会(さんしょうかい)のメンバーです。

ある日の気付きがきっかけでした。いつもお昼ご飯の休憩に使っていたベンチから眺めていた桜とその横に立っていたお社がなくなっていた。心を和ませていた風景がもう見られないという寂しさ。

「何とかならないだろうか。僕たち、木を切ること以外にもできるんじゃないの?」

その想いが発端となったのが「風の神お社再生計画2020」プロジェクトでした。

このプロジェクトは、山笑会のメンバーにとって、チャレンジの機会になりました。お社の材料となる木材は、すべて自分たちが間伐したものを使う。丸太は製材所で木材加工してもらうのではなく、自分たちでチェンソーを使って切り出す。2020年2月に倒壊したお社の調査を開始し11月に完成させるまで、メンバーみんなで知恵を出し、協力してやってきました。

「間伐した木を使って、自分たちの手で、再生する」ことにこだわり抜く。そこにはどんな想いがあったのでしょう。言い出しっぺだったという三宅徹さんにお話を伺いました。

三宅徹さん。取材は、押井の里の交流拠点である「普賢院」で行いました。

お金と引き換えに失いつつあるものづくりの力

―最初に、間伐ボランティアグループとよた山笑会について教えていただけますか。

三宅:2015年にとよた森林学校の間伐ボランティア初級講座を修了した人で組織したグループです。今回、お社再生に参加したのは、山笑会の代表で植物に詳しい長谷川さん、大学で建築を教えている平岩さん、システムエンジニアをしている坂口さん、電気技術者である僕の4人です。

三宅:2016年から土日、平日1日の計月3日、押井町で活動させてもらっています。僕は犬山市の中心地から高速道路を使って片道1時間半かけて通っています。

―そもそもの話ですが、間伐ってどういうことをしているのでしょうか。

三宅:日本は国土の7割を森林が占めていますが、林業が衰退したことで人工林が放置され、山が荒れています。どうにかしたいと集まった自然大好きな仲間が間伐ボランティアです。間伐とは、森林が茂りすぎるのを防ぐために、適度な間隔で木を伐採することです。

―三宅さんはどうして間伐ボランティア初級講座を受講することになったのですか。

三宅:もともと徳島県出身で、就職を機に愛知県に来ました。東日本大震災が起こった後にボランティアとして活動している方たちのことが頻繁にニュースで流れていました。それを見て、僕にはそういう経験がないのが恥ずかしいと感じました。

ただ力仕事をするよりも、客観的に見て誰もが必要だと思うような技術を持つボランティアがしたい。そんな頃に、花粉症になってしまいました。間伐ボランティアになって木を切れば、花粉症の原因を根本から断つことができるんじゃないかと思いました(笑)

―実際に森に入ってどうでした?

三宅:町にいるよりも山の中に入っている方が、症状が軽いみたいです。

―風神社の再生をしようという言い出しっぺだったのが三宅さんだということですが、どういう理由からだったのですか。

三宅:ちょうど「豊森なりわい塾」を9期生として受講していたことが影響しました。豊森なりわい塾は、豊田市の山村地域を実際に歩く、地元の方にお話を聞く、講師のレクチャーを受けるなどのことから、これからの生き方、働き方、社会の形を考える塾です。

受講していて考えさせられました。グローバル化がどんどん進んで、お金で何でも解決するようになって、日本のものづくりの力が弱くなってきているなと。ものづくりをしなくてもお金があればできたものが手に入るから、ものづくりの力がある人が減る。例えるなら、お金を出せばコンビニの弁当が買えるからといつも買っているうちに、弁当が自分で作れることを忘れてしまうようなものです。

もともと海と山が近くにある徳島県阿南市で生まれ育ちました。魚は釣れる、両親は自家菜園をやる、母親は縫製ができる。親戚どうしで余剰の食べ物をお裾分けする関係性もあった。思い起こせば金がなくてもやっていけていたという原体験がありました。

僕は、飛行機をつくる会社でエンジニアとして働いているので、作る技術を持っていても良いはず。お社だったらできるんじゃないか。自分のものづくりの力を試してみようと思いました。それに、いつも間伐して、そのまま放置している木がもったいないと感じていたので、使ってみようと。

―他のメンバーの方に提案した時は、どんな反応でしたか?

三宅:「三宅さんが言うなら一緒にやろう」、「間伐材を使う良い機会」と賛成してくれました。

取材では、平岩さん(右)、長谷川さん(右から2人目)もお話を聞かせてくれた

―地域の方はどうでした?

三宅:間伐をする際の窓口になってくださっている鈴木啓佑さんに相談しました。作業場所として、押井のライスセンターをお社再生計画実行の本拠地として使って良いと許可いただいきました。

材料はホームセンターではなく森から

―最初は何から始めましたか?

三宅:お社の部品を分解して一つ一つ寸法を測定しました。折れてしまっている部分などは想像で補いました。部品の点数は40点もあることがわかりました。

そこから、設計図を作成。次に、必要な部品とそれに必要な丸太の大きさ、本数、進行状況がメンバーで共有できるように工程表を作りました。

―計画が整ったところで材料集めに入ったということですね。

三宅:はい、いつも間伐させていただいている山主さんに許可をいただいて、風神さんの隣にある里山から出した丸太を使えることになりました。社の上に倒れてしまった桜の丸太の一部も、地域の方から分けていただけることになりました。

―今回は丸太から角材を切り出すことから挑戦されたのですよね。

三宅:普通の方は、建物を作るとなったらホームセンターに角材を買いに行くところから始めますよね。その角材は、海外から大量に輸入されたものが製材されてできたもの。はっきりと分業化されていて、角材になるまでの工程は、買う側には見えていないし、知る必要もないですよね。お金を出せば手に入るから。

でもホームセンターに行かなくても、日本は7割が森林。木はたくさんあるのに、それを使おうという話にならないのはなぜでしょうか。木を切っても、そこから出して土場や製材所に持っていくのにお金がかかるからです。だから、できないということになっている。もしホームセンターがなくなったら、ものづくりの力がないために、丸太がそこに転がっていても何もできないということになってしまう。

今回、丸太から角材を切り出すことで、その課題に向き合ってみました。

―すごいチャレンジですね!どのように進めたのでしょうか。

三宅:「丸太から角材を切り出す」と言葉で書くと簡単そうなんですが、これが結構大変なことでした。幅と厚みが30センチ、長さが1メートルの角材を切り出そうとしました。日曜大工で使うような道具ではできないので、チェーンソーでやることになりました。

―チェーンソーで製材ができるのですね。

三宅:チェーンソー製材機は山や森に運んでやることができて、大型のものから小型のものまであります。最初は、5千円くらいで買えるチェーンソー製材用のアタッチメントを装着してやってみることにしました。丸太の上に、板材を釘で固定して、それをガイドにして直線を出そうと。

三宅:やってみたところ、丸太の上に板を載せると当然グラグラします。四隅を釘で固定するんですが、1箇所打つだけでも1時間かかってしまう。4本で4時間。1メートルの角材が数十本必要なのに、丸1日かけて1本しかできない。月の作業日は2回なので、角材を作るだけで6ヶ月以上かかってしまうことになります。

やっぱり、製材所ってすごい…と頭によぎりながら、効率が上がるような道具を自分で作ってみることにしました。

―道具も無いなら作る!なんですね。

三宅:はい、チェーンソー製材用ガイド板を自主制作しました。釘で固定していたのを、挟んで固定するようにしました。丸太の長さに応じて、挟み込みの位置を変えられるようにしました。1本1時間かかっていたのが、2、3分でできるようになりました。1日4本切り出せるようになり、秋に行われる祭礼までに再生できる可能性が高くなりました。

―材料が揃って、作業開始ですね。

三宅:本格的に作業を始める前に、大学で建築を教えている平岩さんがお社の模型を作ってきてくれて、それを見ながら打ち合わせしました。僕は、模型という発想がなかったので、ものづくりの進め方にも色々あるのだなと刺激を受けました。

―そこからは、どんな工程で進めましたか。

三宅:メンバーみんなで丸鋸やカンナなどの道具を持ち寄り、角材から必要な部品をどんどん切り出していきました。平岩さんがいたことが大きかったですね。柱を完成させて8月には、土台と合うかを確認、仮組もしてみました。

残念ながら、9月のお祭りには間に合わなかったのですが、作業はスムーズに進んでいました。据え付け作業を完了し、桜の木で屋根の妻側(建物の棟に直角な側面)に取り付ける破風板という部材を作って、10月には屋根を取り付けました。壊れてしまう前に付いていた化粧板を11月に取り付けて完成しました。

―メンバーの力を結集し、自分たちのものづくり力を試したプロジェクトが完了して、さぞや感慨深かったのでしょうね!

三宅:僕は昔、自転車で日本縦断した時でも、何かやり遂げた時に感動で涙が出る、というようなことは基本的に無いタイプです。自分自身の経験になったこと、押井町のみなさんの何かしらのお役に立てたかもしれないことは良かったです。

間伐材を使って、社を再生するという構想が形になりました。これはゴールではなくて、これから他にも何か作っていくことのきっかけだと思っています。

森林ボランティアだから再生できた

―実際にやってみたからこそ、わかったことなどがあれば教えてください。

三宅:今回、森で丸太を材にしたことで、重量としては半分以下になることがわかりました。森から丸太を搬出するのにお金がかかる、というけれど、全部が使われるわけではない。使わない部分までお金をかけて運んでいるというのが現状です。

本当に欲しい材料の大きさにして運べば、搬出費用が少なくて済みます。今はとにかく、森から出すことにお金がかかるから使わない、という発想しかないのですが、森で材にすることで「使う」という考えにつながるのかもしれないと感じました。

課題も見つかりました。切り倒して自然乾燥させていた木を使ったのですが、反ったり、虫が結構たくさん入っていました。そこそこD I Yで使えるような状態の材にするのであれば、強制的に乾燥させたりといった方法を考える必要があるかもしれません。

―2021年9月のお祭りで、押井町の皆さんにお披露目される日が楽しみですね。

三宅:はい、このお社を見て、間伐ボランティアがどんな存在なのか理解してくれる方が増えるといいなと思っています。「木を切る」という行為は同じですが、僕たちは森林組合とは違います。森林組合で作業をやる方たちはお金をもらってやっているので、効率を求めるし、依頼をしてくる顧客の意向に沿った間伐をします。

僕らはお金が目的ではなくて、森や地域が良くなるように働きかけることが目的です。とにかくたくさん倒すのではなくて、倒した後に森が再生していくイメージを持ちながらどの木を倒すのか、残すのかを決めます。

間伐ボランティアの僕たちだから、お社を再生することができました。経済面だけで考えれば、自分の時間を使って、それでお金が貰えるわけでもない。「それして何が得なの?」と聞かれることもありました。

森で切った丸太をその場に放置せずに、使うことができれば森の価値が高まる。使うことで、森を守ることにつながる。お社再生がそのきっかけになりそうだから山笑会のメンバーで完成までやれた。そう思っています。

(取材、終了)

取材を終えて

高齢化が進む田舎に都会の人が関わるというと、これまではなぜか“困っている田舎を助ける”というイメージが浮かんでくるのが普通だったような気がします。ところが三宅さんたちの動機は“助ける”ではありませんでした。何でもお金を出せば手に入る代わりに手放したものづくりの力を取り戻すため、森の価値を高めるための挑戦としてお社を再生しました。

助けるでも助けられるでもない、お互いに感謝しあえる田舎と都会の関係性があるから、わずか27世帯の押井の里が元気でいられるのだと納得しました。

2021/9/5 お祭りでのお披露目会の様子

ライタープロフィール

木浦 幸加

1979年生まれ。2014年からパートナーの実家がある豊田市の田舎・旭地区に暮らしています。本が好き。文章がいつも私を勇気づけてくれています。まるでページをめくるように相手を取材し、見つけた唯一無二の光を文字にできるようにすることが目標。おいでん・さんそんセンタースタッフ/とよたでつながるローカルメディア「縁側」編集長/最近の関心分野は、薪割り、山登り、ジェンダー平等、IPAビール

「自給家族」について

日本中の山村集落を、消滅の危機から救う為のモデルを創る。キーワードは「自給」と「家族」です。食と農のあり方や、持続可能な社会に関心をお持ちの皆さんが、「自給家族」として支え合う仲間に加わっていただくことで、それは実現できます。

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